所得税の「年収の壁」が160万円から178万円へ
令和8年度税制改正で、所得税の「年収の壁」がさらに引き上げられ、新たに 「178万円の壁」 が誕生しました。
ニュースでは「壁が上がって働きやすくなる」とも報じられていますが、パート・アルバイトを雇う経営者にとっては、従業員からの相談対応・年末調整・給与計算の実務に直撃する改正です。しかも、この「178万円」というキーワードは 経営現場で一番誤解を生みやすい数字 でもあります。


そこで本記事では、税理士の立場から、パート・アルバイトを雇う経営者の皆さまが知っておくべきポイント を、優先順位の高い順にまとめました。
関連記事:令和7年税制改正:所得税の基礎控除が大きく変わります
こんな方は要チェック
ひとつでも当てはまる方は、ぜひ最後までお読みください。
- 1.パート・アルバイト従業員を雇っている経営者・店長
- 2.大学生・19〜22歳の学生アルバイトを雇っている飲食店・小売店・塾など
- 3.配偶者を従業員として給与を出している個人事業主・小規模法人
- 4. 従業員から「いくらまで働けますか?」と相談を受ける 立場の方
- 5.年末調整・給与計算を自社で行っている 経営者
- 6. ご自身が個人事業主で、合計所得が655万円以下(特例の上乗せ対象)


特に1〜3に当てはまる方は、令和8年の年末調整に向けて準備が必要 です。
令和8年の主な変更点
「178万円の壁」と「130万円の壁」を混同してはいけません
私たち税理士が、今回の改正で経営者の皆さんに最もお伝えしたいのはここです。
報道では「178万円の壁」だけが大きく取り上げられていますが、働き控えの本当の原因は税金ではなく社会保険の壁 です。そして、社会保険の130万円の壁は、今回はそのままです。
2つの「壁」の決定的な違い
| 税金の壁(所得税) | 社会保険の壁 | |
| ライン | 178万円(令和8・9年) | 130万円(据え置き) |
| 超えたらどうなる | 所得税が課税される | 配偶者の扶養を外れ、自分で社会保険料を負担 |
経営者の皆さんには、「税の壁(178万円)」と「社保の壁(130万円)」は別物であることを、ぜひ社内で共有していただきたい と思います。
「106万円の壁」は事実上撤廃されました
これまで従業員101人以上の事業所で適用されていた「106万円の壁」は、令和7年の最低賃金引き上げを受けて事実上撤廃 されています。
「178万円の壁」の中身:4つの改正の組み合わせ
結論:基礎控除 + 給与所得控除 = 178万円
- 基礎控除の控除額(特例含む):最大104万円
- 給与所得控除の最低保障額(特例含む):74万円
- 合計 104万円 + 74万円 = 178万円
この178万円は、4つの改正が組み合わさって 成立しています。経営者の皆さまには、どこまでが恒久措置で、どこからが2年限定の特例なのか を区別しておいていただきたいところです。
改正①:基礎控除の引き上げ(恒久措置)
合計所得金額が2,350万円以下の方の基礎控除額が、58万円 → 62万円 に引き上げられました。
改正②:基礎控除の特例(令和8年・9年の2年限定)
加えて、合計所得655万円以下の場合、所得に応じて 最大42万円が基礎控除に上乗せ されます。
特例の上乗せ分を加えた基礎控除の控除額
| 合計所得金額 | 給与収入のみの場合※1 | 令和7年 | 令和8・9年※2 |
| 132万円以下 | 206万円※3以下 | 95万円※4 | 104万円※4 |
| 132万円超 336万円以下 | 206万円※3超 4,751,999円以下 | 88万円※4 | 104万円※4 |
| 336万円超 489万円以下 | 4,751,999円超 6,655,556円以下 | 68万円※4 | 104万円※4 |
| 489万円超 655万円以下 | 6,655,556円超 850万円以下 | 63万円※4 | 67万円※4 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 850万円超 2,545万円以下 | 58万円 | 62万円 |
※1 特定支出控除や所得金額調整控除がある場合は、表の金額とは異なります。
※2 合計所得金額2,350万円超の方は、改正はありません。
※3 令和7年は「2,003,999円」です。
※4 特例の上乗せ分は、居住者についてのみ適用されます。
→ 改正①と改正②により、基礎控除の控除額は最大104万円 となります。
改正③:給与所得控除の引き上げ(恒久措置)
給与所得控除の最低保障額が、65万円 → 69万円 に引き上げ。
改正④:給与所得控除の特例(令和8年・9年の2年限定)
加えて、給与等の収入金額が220万円以下の場合、最低保障額がさらに5万円上乗せ されます。
→ 改正③と改正④により、給与所得控除の最低保障額は74万円 となります。
基礎控除 最大104万円 + 給与所得控除 最低保障74万円 = 178万円。 これが今回新たに誕生した「178万円の壁」です。
学生アルバイトを雇う経営者は注意!
飲食店・小売店・学習塾など、大学生のアルバイトを多く雇う事業者は「学生本人」ではなく、「親御さんの税金」に影響が出る壁がある という点も気をつけましょう。
扶養親族等の給与収入金額と控除の関係
| その親族の給与収入金額(令和7年) | 令和8・9年 | 超えるとどうなる? |
| 123万円 | 136万円 | 扶養控除の適用ができなくなる → 特定親族※を扶養している場合、特定親族特別控除の対象 |
| 150万円 | 159万円 | 特定親族特別控除の満額適用(63万円)ができなくなる |
| 188万円 | 197万円 | 特定親族特別控除の適用ができなくなる |
配偶者を扶養している方・配偶者を雇用している経営者へ
ご自身や従業員が配偶者控除を適用している場合、配偶者の年収の壁も変更されています。
配偶者の給与収入金額と控除の関係
| 配偶者の給与収入金額(令和7年) | 令和8・9年 | 超えるとどうなる? |
| 123万円 | 136万円 | 配偶者控除が適用できなくなる → 配偶者特別控除の対象 |
| 160万円 | 169万円 | 配偶者特別控除の満額適用(38万円)ができなくなる |
| 201万円 | 207万円 | 配偶者特別控除が適用できなくなる |
配偶者を従業員として雇用している個人事業主・小規模法人の経営者の方 は、給与額をいくらに設定するかでこの控除の適用が変わります。私たちもこの時期、顧問先の経営者からよくご相談を受ける論点です。
住民税の「年収の壁」は所得税とは別ラインで動きます
住民税は所得税とは別のロジックで動くため、混同に注意が必要です。
私たち税理士の現場でも、「所得税はかからないと聞いたのに、住民税の通知が来た」というご相談は毎年あります。両者は別物として整理してください。
住民税の改正ポイント
- 基礎控除の改正はありません(所得税のような引き上げはなし)
- 給与所得控除の最低保障額が 65万円 → 69万円 に(恒久・+4万円)
- 令和9年度分・令和10年度分は、特例で さらに5万円上乗せ
- 結果として、住民税の壁は 9万円の引き上げ
一般的な住民税の「年収の壁」※
| 令和8年度分 | 令和9年度分・令和10年度分 |
| 110万円の壁 | 119万円の壁 |
社会保険の「年収の壁」は据え置きです
冒頭でも触れましたが、もう一度、表で整理しておきます。
| 130万円の壁 | 被扶養者の収入基準 |
| 150万円の壁 | 被扶養者が19歳以上23歳未満である場合(配偶者を除く)の、被扶養者の収入基準 |
| 180万円の壁 | 被扶養者が60歳以上又は一定の障害者である場合の、被扶養者の収入基準 |
これらの壁を超えると、扶養から外れて自分自身で社会保険料を負担することになり、手取りが減少する「手取りの逆転現象」が起こる ため、働き控えの大きな要因となっています。
なお、これまであった「106万円の壁」は、令和7年の最低賃金引き上げを受けて、事実上撤廃 となっています。
経営者が今すぐやるべき4つのこと
税理士の立場から、経営者の皆さまに令和8年に向けてやっていただきたいことを4つに絞ってまとめます。
① 給与計算ソフト・年末調整資料の令和8年版アップデート
控除額の判定ラインが軒並み変わります。給与計算ソフトのアップデート、従業員配布資料の差し替えは必ず実施してください。
② 「税の壁」と「社保の壁」を分けて説明できる準備
パート・学生バイトからの質問は必ず来ます。経営者ご自身で答えに迷われる場合は、顧問税理士に相談してQ&Aを準備 しておくことをお勧めします。
③ 学生バイトの年収管理ルールの整備
特に飲食・小売・塾など、大学生を多く雇う業種では、11月時点での年収見込み伝達 をルール化することを強くお勧めします。
④ ご自身(個人事業主)の確定申告試算
個人事業主の方で 合計所得が655万円以下 であれば、基礎控除が 最大104万円 まで使えます。早めに令和8年分の試算を行い、決算対策に反映させましょう。
今後の見通し:「壁」が2年ごとに動く時代へ
今回の改正でもうひとつ重要なのが、基礎控除と給与所得控除が、物価上昇に連動して2年ごとに見直される仕組み が新たに創設されたことです。
次回は 令和10年分・令和11年分(住民税は令和11年度分・令和12年度分)で、消費者物価指数の上昇率に応じた見直しが入る予定です。


まとめ
令和8年度税制改正のポイントを再掲します。
- 所得税の壁は 160万円 → 178万円(ただし令和8・9年限定の特例を含む)
- 社会保険の壁(130万円)は 据え置き ─ ここが最大の落とし穴
- 配偶者・扶養親族(特に大学生年代)の壁も連動して変更
- 住民税の壁は 110万円 → 119万円(令和9年度〜)
- 2年ごとに「壁」が見直される時代に
恒久措置と時限措置が入り混じり、税・社保・住民税で壁のラインがバラバラ。経営者お一人で正確に追い続けるのは、率直に言って、現実的ではない複雑さ だと私たちは感じています。
「自社の従業員にどう説明すべきか」
「年末調整の運用をどう変えるべきか」
「自分の確定申告への影響は」 ─ 少しでも不安があれば、お近くの税理士にぜひご相談ください。
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この場合、税金はどうなるの?と不安があるときは専門家に相談することをお勧めいたします。
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